【コラム】2021年、リテール業界のデジタルシフトは
「CRM」が鍵を握る
2020年は、新型コロナウイルスの影響で世の中が大きく変わった激動の年でした。またそれに伴い、社会全体を通してDX(デジタルトランスフォーメーション)も一気に加速しました。今後、私たちの生活様式やビジネスはどのように進化するのでしょうか?ここでは、2021年に注目すべきテクノロジーのトレンドやリテール業界が取り組むべきデジタルマーケティングの動向について「CRM」の観点から探ってみました。
1.消費者のショッピングのあり方が変わった2020年
2020年の新型コロナウイルスの流行は、紛れもなく消費者のマインドを変化させました。緊急事態宣言やステイホームによって消費活動は低迷し、消費者自身も何を買うか、何が本当に必要なのか、取捨選択のあり方を振り返る1年でした。
また、リテール側は不安定な消費者需要に対応するため、迅速な行動が求められました。リアル店舗主導型は客足が減ったことで売上が落ち、デジタルを主軸とした経営戦略の転換を余儀なくされました。オンラインとオフラインを融合したOMO(Online Merges with Offlineの略)への取り組みや、中間業者を介さず直接消費者に販売する手法のD2C(Direct to Customerの略)といったビジネスモデルが注目を集めたことも記憶に新しいことでしょう。
2020年は消費者の消費行動が本格的にECへシフトした年でもありました。EC用プラットフォームのShopifyは、消費者は今後もリアル店舗での買い物スタイルに戻ることを躊躇する、と分析しています。その理由は「新型コロナウイルスの感染が拡大して以来、日本の消費者の42%が年初と比較してオンラインでより頻繁に買い物するようになった」という調査結果が出たからです。また74%の消費者が「新型コロナウイルス感染拡大以降、オンラインで1回は買い物をした」 とアンケートで回答しています。ECでのショッピングの利便性に慣れた消費者にとって、今後もこの傾向は継続すると思われます。
同じくShopifyの調査によると、高年層(55歳以上)は現在もリアル店舗での買い物比率が若年層(18〜34歳)より高めですが、それでも高年層全体の3人に1人がオンライン購入へシフトしました。リテール側にとっては、自社のターゲット層を明確に再定義し、より的確で安全なエクスペリエンスを消費者に提供することがこれから求められるのではないでしょうか。
2.2021年、新時代を見据えたデジタル施策とは?
それでは2021年、そしてアフターコロナを見据えた未来に対して、リテール業界としてはどのような点に着目すれば良いのでしょうか?ビジネスと消費者の関係を深めるにはどのような示唆が必要なのでしょうか?ここでは、そのヒントとなる4つのキーワードをご紹介します。
1:バーチャルフィッティングの可能性
バーチャルフィッティングといえば、過去2017年にZOZOが発表した水玉模様のZOZOSUITが日本人には馴染みがあるのではないでしょうか。伸縮性のある300以上の水玉で覆われたジャンプスーツを着用し、ZOZOアプリに接続することで瞬時にサイズを計測する仕掛けは当時話題になりました。しかし、消費者はこのコンセプトにそれほど熱狂せず、このスーツは昨年販売中止となりました。
ファッションテック界隈では、長らく試行錯誤が続くバーチャルフィッティング。リアル店舗で体験できる機会は増えている一方、外出することなく、EC上で個人ユーザーも使えるようなバーチャルフィッティングはまだ服ではそう登場していません。海外では、AIと3Dスキャンで自分そっくりのアバターを生成し、モバイル上で試着が楽しめるZeekitというサービスがあり、トミー ヒルフィガーやアディダスといったアパレル企業が導入していますが、日本市場への浸透はこれからといったところでしょうか。
とはいえ、新型コロナウイルスによって顕在化したECへの急速なシフトは、リアル店舗で試着ができない服に対する新たな需要を生み出すかもしれません。3Dスキャン技術も進化を続けており、1人1役アバターを、といった世界が一般的になるかもしれません。
また、モバイルARによるアクセサリーやメガネの試着サービスは海外のミレニアル世代を中心に定着してきているので、同じようにARによる服のバーチャルフィッティングサービスも増えるかもしれません。ファッション業界では、特に返品が大きな問題となっています。一人ひとりの消費者にパーソナライズされた試着体験が提供できれば、そのような課題を解決するだけでなくECへの購買促進にも繋がるでしょう。今後が楽しみなデジタル革新の一つです。
2.バーチャルイベント&ライブコマース
外出自粛に伴い、必要に迫られて普及したバーチャルイベントですが、健康面での安全性だけでなく、消費者にとって対面型イベントよりも気軽にアクセスしやすいという利便性があるため、今後も継続して行われるでしょう。リテール企業にとっては、全く新しい新規の消費者にリーチしやすい、リアルイベントよりコストがかからない、といった利点もあります。
バーチャルイベントで消費者と繋がり、エンゲージメントを高めていくためには、消費者の興味をそそる面白いコンテンツやクリエーションが必要です。また一方通行の発信ではなく、消費者と同じ目線で、同じ共感を抱けるようなインタラクティブなコミュニケーションも大事です。
そういう意味では、ライブコマースも今後要注目でしょう。ライブ配信とECを掛け合わせたライブコマースは中国ではすでに急成長しており、2020年の流通総額は約14.6兆円とも言われています(出典:ライブEC生態進化論─2020ライブEC業界研究報告)。ファッションやビューティ商材とも親和性が高いため、これらに関連する企業は今後より積極的に取り入れていくのではないでしょうか。
3.ソーシャルネットワークの隆盛と淘汰
ソーシャルネットワークは、どの業種にとってもマーケティングを行う上で今や欠かせないツールです。特にミレニアル世代やZ世代をターゲットにする場合、今後ますますSNSの重要性は増していくものと考えられます。その中でも、インスタグラムとYouTubeは購買への興味関心を抱く初期段階として、リテール業界でも重要なチャネルとなっています。
インスタグラムは、自分の生活を彩るインスピレーションを得る場としてビジュアル中心に活用されてきましたが、今後その傾向を継続しつつも、Shop Nowという機能でECへの連携が可能になったことで、直接購買を促すチャネルとして利用する企業が増えています。YouTubeは、インフルエンサーやアンバサダーを活用したライブコマースという形で、購買意欲を効率よく高めることができるチャネルとして注目されています。
ただ、やみくもにSNS発信を連発するのは得策ではありません。現に消費者は日々大量の情報を仕入れており、情報リテラシーが高いためその取捨選択も巧みです。2021年に入り、ラグジュアリーブランドのボッテガ・ヴェネタがインスタグラムのアカウントを削除したことが話題になりました。ブランドのアイデンティティを守り、正しいブランドイメージを浸透させるために、SNSチャネルの淘汰を実行するブランドも出てきています。SNSを単なる消費者リーチの手段とせず、ブランド側もSNSとの付き合い方を吟味し、しっかりとブランディング設計を行った上で、今後は消費者が真に求めていることは何か?というカスタマーセントリックな視点を持ったコミュニケーションがより重要になるのではないでしょうか。
4.消費者のインサイトを寄り添うデータ分析
データを軸としたデジタルマーケティングは、今後より競合優位性を高める上で必要となるでしょう。2020年は、デジタルファーストの企業がいち早く苦境を挽回しました。消費者の購入履歴や行動履歴、市場分析を始めビジネスのあらゆる側面を把握するのはもちろんのこと、今後の勝ちパターンを見つける上で予測分析も欠かせません。
予測分析に関する費用は、2027年までにグローバル規模で354億5000万USドルに達すると推定されています。リテール企業にとっても、ECやオウンドメディアを効率良く活用するにはデータ分析ツールを使い、離脱率やコンバージョン、LTVなどの指標を通してより正確に消費者のインサイトに寄り添い、効果的なマーケティングを実行することが重要と言えます。