21世紀で最もセクシーな職業

最近、「データ・サイエンティスト」という職業が注目されているといった類の記事や会話に遭遇する機会が増えてきました。先日も日本経済新聞の一面で紹介されていましたので、ご覧になった方も多いと思います。
昨秋ハーバード・ビジネス・レビューでも、「データ・サイエンティストほど素敵な仕事はない(邦題)」という記事が発表されています。概ね、ここからの引用が大半ですね。

Harvard Business Review
October 2012
Data Scientist: The Sexiest Job of the 21st Century
http://hbr.org/2012/10/data-scientist-the-sexiest-job-of-the-21st-century/ar/4
※日本語訳はDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2013年2月号に掲載
http://www.dhbr.net/articles/-/1565

件の記事のExecutive Summaryによれば……
■ 優秀なデータ・サイエンティストは稀少なので、獲得競争がし烈であり、離職を食い止めるのも困難である。金銭面の報酬だけ
 でなく、自由度のある職務環境を用意し、意思決定者とデータをつなぐ「かけ橋」となって価値あるものをつくり上げたい! 
 というニーズに応えられるやりがいのある課題を与える必要がある。
■ 今後は、データ・サイエンティストを養成する大学が増えてくると思われるが、それを待たずに、いまから積極的に確保して
 いかないと、情報化社会では致命的な遅れにつながるおそれがある。
ずいぶんと持ち上げられています。

データ・サイエンティストが何を置いても取り組むのは、大量のデータの中から有益な「何か[Findings]」を見出すことです。弊社が対象にしているデータソースに当てはめて考えれば、ソーシャルメディア(SNS)に拡がる膨大な口コミデータ、お客様相談窓口に入ってくる大量のお客様の声データ、POS等を介して取得された購買データ、WEBサイトのアクセス状況データ等が対象となってきます。これだけでもかなりのビッグデータです。総務省「情報通信白書(平成24年版)」によれば、ビッグデータを構成する各種データとして、ソーシャルメディアデータ、カスタマーデータ、オフィスデータ、ログデータ、オペレーションデータ、センサーデータ、ウェエブサイトデータ、マルチメディアデータ等が挙げられています。これらはICT(情報通信技術)の進展により、生成・収集・蓄積等が可能・容易になる多種多量のデータなのです。掴みどころがないデータではなく、分析のやり方によって、掴みどころ満載のデータということなのです。従って、異変の察知や近未来の予測などを通じ、利用者個々のニーズに即したサービスの提供や業務運営の効率化、新産業の創出が可能になると記載されています。

総務省HP
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h24/html/nc121410.html

ビッグデータに関する文献は、枚挙にいとまがありませんが、上述のデータ・サイエンティストの記事は、そもそもビッグデータ特集でした。その中にあったコラムに面白い記述があります。
■ インフルエンザ関連のキーワードによる検索件数を集計した「Googleインフルトレンド」のデータを使うと、インフルエンザ絡み
 の急患数の激増を予測できることをアメリカの医学研究者は発見している。しかも、公式の警報発令よりも1週間早く。
 Google インフルトレンド(日本)http://www.google.org/flutrends/intl/ja/jp/#JP
様々な事が、ビッグデータを介して、予測できるようになっているのです。

こうした様々なビッグデータを読み解いていくデータ・サイエンティスト……ハーバード・ビジネス・レビュー(以下、HBR)によれば、自分に関わる人すべてが理解できる言葉でコミュニケーションを図り、言葉と視覚、理想的にはその両方を使って、データで物事を語るという特殊なスキルを見せることが出来る人とあります。そのことは、それほど特殊な能力なのでしょうか? データ・サイエンティストという肩書ではなくてもそうした事に長けている人材は、たくさんいます。無論、HBRの記事の前段の件で、「最も基本的で普遍的なスキルは、コードを書く能力」ともあるのですが……。
とはいえ、上記のデータ・サイエンティストの定義を拡大解釈すれば、「ビックデータと呼ばれる大きなデータのかたまりから、統計分析スキルだけでなく、高度なITスキル、経営・マーケティングに関する深い知見を活用してデータの価値を生み出す役割」といえるのだと思います。そこに必要な要素は、「何か」を掴む「センス」「嗅覚」なのではないでしょうか。

先日、私が講師を務めるビジネススクールの統計担当の先生と雑談をしていた際、最近統計の専門科目を履修する学生が減ってきているといった話を伺いました。MBAにおいて、統計は基本の「き」であります。社会人学生とはいえ、比較的若い方が統計を深く研究せずにMBAを卒業している実態は、実に惜しいという思いを強くしました(当然、自分の事は棚に上げています)。そういった話に今回のテーマ「データ・サイエンティスト」を準えれば、その素養は本来MBAホルダーが備えるべき素養といって過言ではないと思うのです。すぐさまコードが書けるようにはならなくても、統計分析スキル、高度なITスキル、経営・マーケティングに関する深い知見が吸収できるMBAコースに在籍されている方は勿論、これから門戸を叩こうとされる方は特に、統計の深い研究をこの期間にされることを強くお薦めします。先ほどのHBRの記事でもコードが書ける能力という条件は、5年後に「データ・サイエンティスト」という肩書を持つ人が増えてくれば、違うものになるかもしれないとも予想しています。

多くの方が、セクシーな「データ・サイエンティスト」を目指し、引く手あまたの人材となるべく「ビジネススクール」の門戸を叩き、新解釈「統計に強いMBAホルダー=データ・サイエンティスト」となって下さることを関係者の端くれとして願ってやみません。そして、価値共創出来ればと思うのです。